SORASHIMA STORY
デジタルで溢れた日常に少し倦怠感を感じ、私はゆったりとした癒やしの時間を求めて旅を決意。いわゆるデジタルデトックスというものだ。これが“ソラシマ”での物語のはじまり。SNSを開き、#絶景 で検索。スマホの画面には300万件を超える大量の「絶景」写真がずらりと並ぶ。未だ行ったことも見たこともない場所がたくさんあるものだ。その中でも目にとまったのが雲の上に浮かぶ島、通称“ソラシマ”だ。そこから数日後、少しの荷物とスマホを片手に“ソラシマ”を目指し、ついに辿り着いた。島に降り立てば、そこには聳え立つ山々と見渡す限りの緑!とにかく空気が美味しい!何度でも深呼吸をしてしまう。
“ソラシマ”には、山頂に一軒のカフェがあるらしい。近頃運動不足だった私にはいい機会だし、歩きながら大自然を思い切り満喫しよう。カフェを目指す道中には、見るからに美味しそうな澄み切った水の流れる川と、その川のほとりにきれいな黄色をした野花が咲き誇っていた。それにしてもこの島は、どこを切り取っても絵になるような素敵な景色に溢れている。森の中を進み長い山道を歩いてきた。そろそろひと休憩、辺りの景色だけではエネルギーがもたなくなってきたちょうどそのくらい、なんともいいタイミング。道の開けた場所が見えてきて、とても美味しそうなコーヒーの香りが私の鼻を通った。香りのする方へと近づくと、そこには木造の古民家と「空島珈琲店」の看板の文字。これだ!さっそくドアを叩き入店した。
店内は古民家ならではの木の温もりに包まれた心地の良い空間。外の景色が見える窓際の席に座り、日替わりサンドイッチと空島オリジナルコーヒーを注文。小さな島とはいえ、島を目指しここに辿り着くまでに結構な時間を費やした。さすがに疲れたなぁと無心になりぼーっと座っていると、ローストされたチキンと野菜がたっぷりとサンドされた栄養満点のサンドイッチが運ばれてきた。疲れた体にぴったりだ。澄んだ空気とこれだけの大自然で育った野菜はやはり美味しい。満足気にサンドイッチを食べていると、淹れたてのコーヒーが運ばれてきた。店内に充満する芳醇な香りを楽しみつつ、待望のコーヒーをさっそくひと口。ここまでの旅の出来事が頭の中で巡り回ったあと、あぁ、なんて幸せな時間なのだと思わず目を瞑りながら大きめの深呼吸をした。
思い出に浸りながらゆっくりと目を開けると、窓の外で一匹の鹿がこっちを見ている。その鹿は立派な角を生やし、凛とした佇まいではあったがどこか穏やかでとても優しい顔をしているように見えた。まるでコーヒーを飲んでホッと一息つく私のように。
忙しない日々を淡々とこなす私が、ゆっくりと優しい時間を過ごすことができた。ここには日頃感じることのできないような落ち着きと安らぎの空間がある。これまで見てきた景色を回想させる至福の一杯が強く心に残り、空島珈琲店は私にとって思い出深い珈琲店となった。